道路特定財源の一般財源化について 第3回


いろいろと書こうと思いながら日々を過ごしているうちに、8日の臨時閣議で「道路特定財源の見直しに関する具体策」が決定しました。

(詳細はGoogleニュースで)


新聞では玉虫色、先送りなどと書かれていますが、むしろ、とんでもない枠組みで決定されなくて正直ほっとしています。それどころか、税財源で自動車道を建設することになった小泉改革に続いて、またもや瓢箪から駒が出てきたことはある意味よかったと思っています。


その駒とは、自動車道(高速道路)の通行料金の値下げにも充てるということです。これは、遅くて危険性の高い日本の道路交通を改善するために絶対に必要な政策です。見かけ上積極的な投資のようですが、過去の知的怠慢のつけの支払いにあたります。


今回はその通行料金の値下げのための制度を提案します。
それは「部分的な陰の通行料金」です。

部分的シャドウトール 英訳は(PST :Part Shadow Toll)とでもしておきましょう。


本当は、根本から法律を変えて償還計画を大きく見直し、本四のように債務を大胆に切り離して道路特定財源でも返済することにして道路会社の支払うリース料を減らしたり、会社に補助金を入れて、料金を下げればよいだけなのですが、小泉内閣が作ってしまった当面変わることのなさそうな制度の中での現実的な方法を考えました。



制度の説明の前に、ここで一旦、通行料金の値下げの重要性について簡単にまとめます。


前回は、交通事故や道路公害を減らして、社会保障費(医療費)を削減する必要性について書きましたが、「使える」ハイウェイ推進会議の資料にもあるように
高規格道路では、
・死傷事故の発生率は、一般道路の10分の1
・CO2の排出量は一般道路の約4割削減 
となってます。効果はこれだけでなく、通過交通をいわゆる生活道路から排除して高規格道路に転換させれば、一般道の事故も減り、公害も低減されます。


また、渋滞による経済損失は12兆円といわれていますが、そのうち高規格道路が十分に利用されていないことによる損失も相当のものです。利用されれば、一般道から転換した交通の損失解消はもちろん、一般道を通行する交通には、混雑緩和によって旅行速度が向上する。という効果があります。(※道路構造改革ではさらに、交通量の減少した交差点の無信号化を進めます)

このように有料高規格道路の利用促進は、道路交通のあらゆる面で計りしれない効果があります。こういうことが明らかになっているのに、なぜできない、やらないのか、ということこそが問われるべきです。


(前回からの繰り返しになりますが)「無駄な道路整備を止めよ」というなら、通行料金を値下げして、すでに建設された有料高規格道路への転換を促進することはなによりも重要です。


島根県道路特定財源に関するリーフレット にみられるように、まだ基幹的な道路が十分整備されていない地方では、特定財源での整備を続けることを求めています。


財源を直に地方の道路整備に回してしまうと、値下げは難しくなります。しかし、地方での基幹的道路の整備と料金値下げは、どちらかでなく、どちらもする必要があります。


そのために、十分に利用されていない有料高規格道路の通行料金を下げて交通をそちらへ誘導し、混雑する平行一般道、特に過剰なバイパス整備への無駄を無くし、その分を地方の道路整備に回すという遠回りな思考が必要です。これこそが、無駄な道路整備を止めることであり、本来あるべき効率的な道路整備なのです。


以前の記事、『「道路整備の中期ビジョン」にみる道路公団民営化という愚策』も参考にしてください。



通行料金の値下げに充てよという意見だけは、当然のことなので各方面から出ています。


山陽新聞社説 
(道路特定財源 通行料金値下げに充てよ)
(道路財源一般化 税率下げや課税廃止こそ)

全日本トラック協会は、深夜割引を80%にまで思い切って拡充することなどを求めています。
記事:「トラックの高速道路料金の国際比較」も(富士物流:カーゴニュース11月21日号)

しかし、実際にどのようなお金の流れで値下げするのかという案はあまり聞かれません。


以前の記事、『「道路整備の中期ビジョン」にみる道路公団民営化という愚策』 でも少し書きましたが、読売社説もこう書くように、 

使途拡大の一環として、高速道路料金を引き下げる原資とすることもうたわれた。道路関係4公団を民営化したのに、税金を投入するというのでは筋が通らない。撤回すべきだ。

民営会社になったことで税金の投入が難しくなったことがその理由でしょう。全国規模で抜本的な料金改革をするためには、民営化の趣旨を生かしながらも、小泉内閣で作った枠組みを超えて新たな制度を作る必要があるからです。


それに対応する新しい制度が「部分的な陰の通行料金」です。 

ここでは、基本的な枠組みだけを簡単に紹介ます。慢性的に混雑する路線の料金など、路線毎のことについては別の機会に改めて書くことにします。


「部分的な陰の通行料金」とは、イギリスなどで採用されている制度、陰の通行料金(シャドウトール:Shadow Toll )を応用した制度です。(一般的に影という字が使われていますが誤りでしょう。)


陰の通行料金を簡単に説明すると、利用者が利用毎に通行料金を支払うのではなくて、政府などの公共部門が、サービス提供者である民間の建設運営企業(日本でいう高速道路会社や道路公社)に 交通量に応じた料金を支払う制度です。


イギリスなどでは通行料金の全額が陰の料金となっているので、利用者からの見かけ上は、無料開放されているように見えますが、「部分的な陰の通行料金」では、いま利用者が支払っている通行料金のうち、例えば半額を政府などが利用者に代わって支払うことにして、利用者は見かけ上半額だけ支払うようにします。


これによって、(本四の債務を切り離して返済したことについては、あまり問題視されないのが不思議なのですが…それはともかく…)批判の的となる道路会社や保有・債務返済機構への直接の税金投入ではなくて、利用者、国民に還元する形にできます。また、道路会社の収入は交通量に対応しているので、利用される努力をする必要がある。という点も特徴です。


もう一つの特徴として、例えばある路線で利用者が支払う料金を半額にするからといって、陰の料金で半額分をまるまる支払わなくてもよい。ということがあります。


料金値下げによって利用台数が増えることで、「道路会社が利用者から得る料金収入」は今の半額よりも多くなるので、道路会社の収入を『「現在のように全額を利用者が支払っている場合の収入」に相当させるために国が負担しなくてはならない額』は半額より少ないのです。そして、料金が高くて利用していなかった交通、つまり潜在需要が多い路線ほど少なくなります。


有料道路全体でどれだけ値下げできるかを決めるのは、予算だけでなくこの差額分がどれほどになるのかによります。いわば陰の予算として生み出されたこの差額分も、さらに割引の原資となるからです。


実は、陰の料金と似た仕組みで国が料金の一部を負担する方法は、通行料金値下げの社会実験で行われています。


道央自動車道での社会実験(半額)を行っている協議会に尋ねたところ以下のような回答を頂きました。

NEXCO東日本が管理する高速道路を使用しての実験となりますことから、 他都市における社会実験同様、有料道路の採算に影響が生じないよう配慮する必要があります。

当協議会における社会実験は、国土交通省の委託を受けて実施しておりますが、「実験実施に係る費用」として「有料道路の採算に影響が生じないようにするための費用」を計上しております。

「有料道路の採算に影響が生じないようにするための費用」は、実験区間における 前年度と今年度の料金収入の伸び率を考慮し、「社会実験を行わない場合の料金収入」から「社会実験中の料金収入」を差し引いた額として算出しており…

全国のあちらこちらで局所的に料金割引き実験が行われていますが、これでは周知が徹底されませんし、通過交通には割引とならないといった問題もあって効果が低いので、それを全国規模で行う必要があります。その際、全国規模の値下げとなっても「有料道路の採算に影響が生じないようにするための費用」を単に埋め合わせるこの社会実験の考え方でよいのか、道路会社の経営努力も求められる部分的な陰の料金という考え方が必要なのか、考える必要があります。


いずれにしても大切なことは、まずは社会実験で良いとしても、いつまでもそのままにしてごまかすようなことをは止めて、きちんと国会を通して制度化すること、そして継続させることです。


ちょうど使い道が未定となっている2007年度予算での余剰分は、値下げ社会実験の予算に充てて、どのくらい交通量が増加するかを見極めて、2008年通常国会で改正される予定となった財源関連の法改正できちんと制度化すればよいでしょう。