「道路整備の中期ビジョン」にみる小泉流道路公団民営化という愚策


1日、国交省が「道路整備の中期ビジョン(案)」を公表しました。
国交省の記者発表
概要は FujiSankei Business i. 道路整備中期ビジョン案 事業費10年で58兆円 にて

この中から、日本の道路行政の問題が特に表れている項目について、まっとうな政策の提案をしつつ、小泉改革による道路公団の民営化で、「有料高速道路」の財布を、国や自治体の道路予算から完全に切り離してしまったことが愚策であることを明らかにします。


尚、これは、道路構造改革の一貫として、有料道路の通行料金を、大胆に値下げするか無料開放をすべき、という根拠の1つでもあります。

○ 詳細編・・・・別添資料3 より抜粋
Ⅰ供用中道路の維持・修繕・更新

課題

・橋梁など高度経済成長期に作られた多くの道路ストックが、今後急速に高齢化
・橋梁は十分なメンテナンスが行わなければ、平均60年程度で寿命
・適切な時期にメンテナンスを実施することで、約100年に延命し、トータルコストを縮減可能。
・旧基準の橋梁は、床版が薄く、鉄筋量も少ないため、40〜50年で床版にひび割れ、陥没等の損傷が発生


整備目標・事業量

・既存橋梁の延命化(平均60年程度を約100年以上に)を図ることにより、ライフサイクルコストを最小化するため、建設後50年以上となる約28,400橋をはじめとする道路に対し、適切な時期に必要な維持・修繕・更新を実施

国交省は、これを示すことで道路特定財源一般財源化の再考を求めているようですが、とても浅はかなビジョンでしかないことが残念でなりません。このビジョンが、工事を減らしたくない人たちのための物ならば、ある意味しかたが無いとも言えますが、日本の道路行政は本当にこれで良いのでしょうか。

真に日本の道路に求められる政策は、次の通りです。


課題とされている古い橋梁がある地方国道(特に自動車道が平行している路線)の大型貨物車の交通を自動車道へ転換させることによって、国道の大型車両の通行を最小化し、古い橋梁の負担を軽減して修繕(延命化)、更新(掛け替え)費用を縮減するのです。

そのためには、国道の役割を、主要幹線道路からローカル道路に格下げします。その例を挙げると、大型貨物車だけでも一日あたり数千から数万台と通行する(重交通の)国家的幹線道路から、地域に関係のあるわずかな大型車と普通車が通行するだけのローカル道路や、せいぜい地域の幹線道路にする、ということです。


こうすることで、国道の整備は次のように変わり、費用はかなり削減できるはずです。


修繕(延命化)では、重交通に対応した設計をする必要が無くなります。

更新(掛け替え)するとしても、修繕と同じように重交通に対応しなくてすみます。その時期を後回しにできる橋もあるでしょう。もしも、平行する自動車道の路線の経路が悪い関係で、大型車の転換が十分に進まない場所だとしても、少なくなった交通量に対応するだけですみます。

なかには、ほとんどローカル交通の普通車だけになって、掛け替えの必要が無くなる橋もあるでしょう。


このようにするためには、有料自動車道の通行料金を大胆に値下げするか無料開放することが求められますが、そのための費用が必要です。結局は国道整備と同じように費用がかかるので、意味がないのではと思われるかもしれませんが、全く違うことです。遅くて事故率が高い国道と、早くて事故率が低い高規格道路、どちらに投資すべきかを費用対便益比で考えれば、当然、高規格道路を重視すべきなのです。


より便益の高い高規格道路を最大限に利用し、国道などの整備費を減らすための費用を、道路特定財源でまかなおうとするのは自然な発想です。ところが、小泉改革による民営化の枠組みでは、それが不可能なのです。


「有料高速道路」建設費の債務償還を、道路会社が通行料金収入の中から道路保有・債務返済機構に支払うリース料によって行うと決めてしまったため、料金値下げなどのために、税金も使うことができないからです。(社会実験は除く?)


「有料高速道路」の財布を、国や自治体の道路予算から完全に切り離したことが愚策であることは、この例をとっても明らかです。