0%か100%か、どうしてこうなる日本

7日に、国幹会議(国土開発幹線自動車道建設会議)が開かれ、民営化会社が建設する有料区間と、国と地方が税金で建設し無料開放される「新直轄方式」による区間が明らかになりました。この決定は、税財源の投入が0%か100%かという単純な二択で行われているのですが、これはあまりにもひどい道路政策に基づく結論です。日本は再び道路政策を改革しなくてはなりません。


日本の高速自動車国道は、この2種類の建設方式でしか建設されないことになったのですが、それぞれの場合に、整備の費用がどのくらいの税財源でまかなわれるのか、税財源の割合がどのように影響するのか、このことを少し考えてみたいと思います。まずは、数字(割合)を見てみましょう。

新直轄方式  税財源100%
税金を財源にして建設  通行料金なし 

民営化会社  税財源0%=借金100%
高い通行料金による収入をあてにして借金をして建設費を調達して建設


自動車道政策で関心が高い問題の1つに、なぜ日本の自動車道は料金が異常に高いのか、というのがあります。その理由の1つが、ほとんど借金で建設してきたので、債務の償還(借金の返済)に収入の約半分にあたる1兆円も充てなくてはならないためです。


このようなことになっているのは、日本道路公団時代に、国が税金から公団に出した額が、たったの9%程度でしかないためです。しかも利子補給金という名目であり、建設時に少しでも借金しなくてよいように、ではなくて、作ってしまった莫大な借金の利子を補うという後ろ向きなお金です。


下の引用にあるように、諸外国では、30%程度の真水(税財源)を国や地方が出すのが標準です。そうしないと、日本のように料金がバカ高くなるなど、問題が起こるからです。いまや中国でも35%の借金でないお金を用意して道路を建設するようにしているようです。(道路の話と企業の健全経営のためには過小資本/過剰債務ではいけないという過去の反省とのつながりがわかりませんが)

道路4公団民営化論議異議あり
−「受益」以上の受益者負担をやめ、公団財務健全化のための国費投入を!−
http://www.tsugami-workshop.jp/article_jp_cat2id20020908.html

日本道路公団の過去45年間の国費(=自己資本)投入率は平均9.5%。これに対して海外主要国をみると、米、独、オランダ、ベルギーなどは、もともと全額国費で建設して高速道路が無料のため比較もできないが、有料道路制をとるフランスやイタリアも概ね3割以上を国費で負担していると聞く(2001年12月8日朝日新聞「私の視点」安達五郎氏の投稿による)。

…中国政府は過小資本/過剰債務で不良債権の山を築いてしまったせいで、企業の健全運営のためには、十分な自己資本を確保することが必要だと学んだ。96年に出た「投資プロジェクトの最低資本金制度に関する国務院通達」(図表2参照)によると、交通運輸のような懐妊期間の長い投資の場合、自己資本比率が35%以上ないと、プロジェクトを認可しないこととされた(35%、奇しくも先述の「国際平均」並みではないか)。

30%程度という事例として、2つの道路を見てみましょう。


例えばフランスのA28(Rouen-Alencon)では  (Aはautoroute 自動車道の路線番号)

社会資本整備等における資金調達に関する研究 (Phase2) 【PDF】 のP21
表 2-7 Alis 社の高速道路A28(Rouen-Alencon)コンセッション事業の資金調達構成

を見ると、この道路の整備のために設けられた会社の資金は、
債券発行によるのが54.4%
国や地方の補助金343(百万ユーロ) 37.5(%) 
企業などの出資金8.1%
合わせて45.6%と少し高めですが、十分に借金以外の資金で建設されていることがわかります。


韓国では先日(1月25日)に開通した大邱釜山高速国道が参考になります。

「大邸−釜山1時間」新高速道路開通
 新空港高速道路、天安〜論山高速道路に続く3番目の大型民間投資道路である新大邸釜山高速道路が、旧正月の連休を数日後に控えた25日、開通した。慶州・蔚山圏に迂回していた既存の慶釜高速道路の問題点を直線道路にすることでほぼ解決した。これにより、大邸〜釜山間の距離は40キロ、時間は30分ほど短縮される。青道・密陽・三郎津などこれまで高速度路が通ってなかった地域も、開通により交通の便が改善されることになった。

朝鮮日報

大邱-釜山高速国道は大東JCT慶尚南道金海市)から東大邱JCT大邱広域市)まで至る全長82Kmの高速道路である。経営は新大邱釜山高速道路株式会社が行っている。通行料は他の路線とは別に支払う。
wikiペディア
その他資料
韓国の地図
高規格道路網 55が新大邱釜山
ライブドア翻訳(韓日の自動翻訳は意外と使えます)

この路線では、国庫補助金の割合は約28%です。

総投資額 25,473億ウォン
 自己資本 : 6,000億ウォン
 他人資本 : 12,415億ウォン (外資 1億ドル含み)
 国庫補助金 : 7,058億ウォン          <−−28%

大邱釜山高速国道株式会社(朝鮮語)による

再び道路改革が必要


国に金がないから財政投融資で金を借りて、ということになっていましたが、それは自動車道の建設が始まった始めの頃だけに通用する話です。いまだに同じことを言い続けて、民営化会社に建設費の100%を銀行などからの借金で調達させようとしている国はどうかしています。


国は、料金が高すぎるなどの理由から十分に利用されない自動車道のかたわらで、莫大な税金を投入して平行する国道のバイパスを建設し、そのせいで自動車道を利用したはずの交通をバイパスに逃して収入をとり逃す。という愚行と、その悪循環を放置しているのです。

本来ならば、パイパスに費やした税財源を旧道路公団に入れることで、既存路線の料金を抑えつつ、不採算路線の建設費に回せばよかったのです。

そうすれば、バイパスが建設されない、料金高くない、
→ 有料道路が十分に利用される。バイパス要らない。
現実にはバイパスに避けている交通からも料金が取れる。

という好循環に入ることができたのです。


この改革で、有料方式では全く採算が見込めない道路は税金で建設する、と改められたことは良かったです(ようやくまっとうになったに過ぎませんが)。 しかしそれも瓢箪から駒、建設費に税金がほとんど投入されず、借金で建設するために料金がバカ高くて利用されないのに、通行料金で返そう、というどうしようもなく頭の悪い仕組みありきで、採算が見込めないからといって、いきなり税財源を100%にしているにすぎないのです。また、有料区間の税財源の投入を0%にしてしまったことも小泉改革の甚だしい愚行です。


異常に高い料金水準を改める気など全くないこと1つを取っても、この民営化は根本的に間違っています。この高規格道路の政策だけを見ても、日本はもう1度、根本的に道路政策を練り直さなくてはならないことがわかると思います。


蛇足ですが、安達五郎という方がどんな人なのか気になります。